経済状況の悪化、少子高齢化に伴う労働生産人口の減少、国際競争の激化、成果主義の導入など、近年、私たちを取りまく環境は大きく変化する渦中にあり、日本でも多くの方がストレスの悩みを抱えています。
ストレスの対処方法には、”深呼吸を行う、規則正しい生活をする、適度に運動する”など様々な方法が報告されており、どれも有効な方法です。しかし、なかにはこのような一過性の方法では治らないケースもあります。ここでは、一過性の方法ではなく、メンタルトレーニングとして実際に行なわれているアプローチ手法のひとつソリューションフォーカスアプローチの中から、”行動のコントロール法”について説明します。
1 ストレスとは!?
ストレスという言葉は、もともとは工学用語です。
「物体に圧力を加えることで生じる歪み」を意味する物理学の言葉であったが、1936年カナダの生理学者ハンス・セリエがネイチャー誌に「ストレス学説」を発表したことから、多くは生理学的な意味で用いられるようになった。一般に、ストレスが溜まった状態を呼ぶことが多いが、外界の刺激に対する生体の反応全てをいい、発散・解消のために行って、精神的・肉体的に加えられた刺激に対する反応もいう。「人間関係」「睡眠不足」など、ストレスを起こさせる刺激は「ストレッサー」と呼ばれる。
(参考出典:語源由来辞典)
ストレスとは、私たちの心や身体が受ける様々な刺激(嫌なこと、嬉しいこと、辛いこと、悲しいこと)を指します。
1.1 ストレスの種類
刺激のことをストレッサーといい、私たちに降りかかるストレッサーには「暑さ、寒さ、騒音、混雑などの物理的ストレッサー」、「薬物、公害物質などの化学的ストレッサー」、「外傷、痛みなどの生物的ストレッサー」、そして「人間関係、家庭、仕事などの社会的・心理的ストレッサー」があります。
ストレッサーによって引き起こされるストレス反応として、次の3つがあり、どれも心身にとってあまり望ましい状態ではありません。
・心理反応:イライラや怒り、モチベーションの低下、不安、無関心他
・身体反応:発汗(冷や汗)、体温上昇、鼓動の早まり、喉の渇き、声のかすれ他
・行動反応:暴飲暴食、ミス(失敗)
私たちの身体は、ストレッサーの種類に応じた反応をするという順応性が元来備わっていますが、過剰なストレスや慢性的なストレスによって順応性が機能しなくなり、心身のバランスを崩す原因になるのです。
1.2 ストレスによる影響
どんなに優れた人でも、何かの拍子に心の状態が乱れてしまうことがあります。そして、それは組織やチームについても同様に当てはまります。
たとえば、チームワークの良い組織やチームがあって..
チームワークがよいとは、そもそもどのような状態を指すのでしょう?
それは、チームメンバー全員に、明るく前向きで相手を思いやる気持ち、さらに積極性や冷静に物事に取り組む心が備わっていること、そんなメンバーで構成されたチームの状態を言います。
このような組織やチームに共通していることは、コミュニケーションが円滑で、雰囲気がとにかく明るい環境が保たれていて、牽引役のリーダー、メンバー全員が仲間に対して敬意と尊敬の念を抱き、いきいきと意欲的に行動していることです。
常に、この状態が続いていれば問題はないのですが、何かがきっかけとなり、急速に悪化してしまうことも起こり得ます。たとえば、チームを構成するメンバーひとりの心の状態に乱れが生じたときなどです。心に余裕がなくなり、明るい気持ちにはなれず、仲間への思いやりの気持ちがかすんでしまう。そのことで、チーム内に今まで保たれていたバランスが狂い、突如、チームワークが乱れてしまう.. そんなことがありうるわけです。
私たちは、嫌な気持ちやネガティブな感情が心のなかに湧き起こったときに心身ともに不安定な状態になります。往々にしてその引き金となるのがストレスです。
感情がネガティブな状態のとき、その感情をコントロールできるかどうかは、ストレスに対する抵抗力の有無によって大きく左右されます。ここでいう抵抗力とは、ストレスに耐えうる強さを指すのではなく、ストレスを感じている今の自分の状態を受け容れられるかどうかを意味します。
以前は、ストレスは身の回りに起きた出来事(ストレッサー)が原因となって生じると考えられていましたが、いまでは出来事そのものではなく、その出来事に対する感情的な反応如何によるものと言われています。
出来事に対して、特段何も感じなければストレスは発生しません。仮に、怒りや恐怖の感情を覚えるのならば、ストレスが生じ心身に影響が及ぶということです。
2 ストレスの対処方法
ストレスの対処方法は数多くあります。”深呼吸を行う、規則正しい生活をする、睡眠時間をしっかりと確保する、適度な運動やストレッチをする、好きなことをして気分転換をする、お風呂などで身体を温める”他、様々な方法が報告されており、どれも有効な方法です。
しかし、なかにはこうした一過性の方法では治らないケースもあります。ここでは、一過性の方法ではなく、メンタルトレーニングとして実際に行なわれているアプローチ手法のひとつ、ストレスと向き合いどのように行動すればよいのかという行動のコントロール法について説明します。
2.1 ストレスと向き合う行動のコントロール法とは
下図をご覧ください。4つのマトリックス、4つに分けられた箱があります。
縦の仕切りによって”自分でコントロールできるものかどうか”、横仕切りによって”重要性・緊急性があるものかどうか”で区分けされ、スペースが4つできています。
- スペース①:自分でコントロールできないことで、重要でもないこと
- スペース②:自分でコントロールできないことだけど、重要なこと
- スペース③:自分でコントロールできることであり、重要なこと
- スペース④:自分でコントロールできるけど、重要ではないこと
実は、私たちが感じるストレスは、この4つのスペースのどこかに必ず入れることができると言われています。
例えば、あなたが、以下A〜Dのようなことでストレスを感じていたとします。
A 近所のコンビニの店員の態度が悪くてイラつく
B 近くの地下鉄工事の音がうるさくて集中して受験勉強ができない
C ノルマが厳しくて全然達成できない
D 早く寝ようと思っているんだけど、つい読書に夢中になって寝るのが遅くなる
これらを先ほどの4つのスペースに入れてみましょう。
2.2 ストレス対処の一例
たとえば、私であれば..
まず、ケースA“近所のコンビニの店員の態度が悪くてイラつく”については、「コンビニの店員の態度は私がどうこうしたからといって良くなるわけではない。つまりコントロールは不可。イライラさせられる店員のいるコンビニにわざわざ行く必要もないので重要性は低い。別なコンビニに行くことにしよう。」、と考えて、①に入れます。
次に、ケースB“近くの地下鉄工事の音がうるさくて集中して受験勉強ができない”については、「地下鉄の工事は騒音がひどいのでやめて欲しいと頼んだところで、工事がストップするわけではない。したがってコントロールは不可。でも受験勉強に障りがあるので重要性や緊急性は高い。図書館などの静かなところに場所を変えて集中して勉強しよう。」、と判断して、②に。
そして、ケースC“ノルマが厳しくて全然達成できない”については、「確かに、厳しいノルマけど達成している先輩もいるので自分に絶対できないわけではない。よって、コントロールは可。営業にとってノルマ達成の重要性や緊急性は高い。上司に相談したり、達成している先輩にうまくいく秘訣を尋ねてみよう。」、と考えて、③に。
最後のケースD“早く寝ようと思っているんだけど、つい読書に夢中になって寝るのが遅くなる”については、「自分の行動についてだからコントロールは可。寝るのが遅くなっているのは確かだけど遅刻しているわけではないので、ひとまず重要性や緊急性は低。でも、夜更かしは身体に毒なので、この本を読み終えたら早く寝ることにしよう。」、と決断して、④に。
次に、ストレスと感じたことを4スペースのどこかに入れた後の対処方法について整理すると..
スペース①の事象については、自分でコントロールできないこと、しかも重要性や緊急性も低いことでもあり、ストレスを感じるだけ馬鹿らしいと考えて“放っておく(=考えない)”ことにします。
スペース②の事象については、この状態を一旦受け容れ、イライラしないような現実的な対処策を考える“のです。「受け容れる」とは、その状況を諦めるということではありません。自分ではコントロールできないことだと一旦受け容れたうえで、小さなことでも構わないので何か変えられるものを探すということです。さきほどの例で言うと「勉強場所を自宅から図書館に変える」のようにです。
スペース③の事象は、“自分でコントロールできて、しかも重要性や緊急性が高いものなので、”いつまでに、どのように、どの程度まで変える”のか、具体的な対応策を考えて実行に移す”、となります。
最後に、スペース④の事象では、“自分でコントロールできて、重要性や緊急性が低いもの。したがって、余裕のあるときにでも対応しよう”と考えるわけです。
メンタルトレーニングとして実際に行なわれているアプローチ手法のひとつ、「ストレスと向き合いどのように行動すればよいのかを考える”行動のコントロール法”」とは、自分がストレスだと感じていることについて、
・4つのスペースのどこに入れられるかをまず見極める
・上述のように、スペース位置に応じた行動に取り組む
を習慣づけるということです。
3 まとめ
ストレス対処法、如何でしたか?
行動のコントロール法を使うと、ストレスだと感じる全てについて、むやみやたらに悩む必要がなくなります。その場の感情や状況に流されることなく、対処すべきことを自分で見極めて、自分で適切に対処できるようになります。
穏やかな人生をおくるためにも、一度、ぜひ、ためしてみてください!